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宇都宮地方裁判所 昭和52年(行ウ)1号 判決

原告 北王地所株式会社

被告 栃木県宇都宮県税事務所長 栃木県

訴訟代理人 布村重成 高塚育昌 新村雄治 斉藤雅久 川崎利夫 外二名

主文

一  被告栃木県宇都宮県税事務所長が原告に対し、別紙目録記載の建物につき、昭和五一年一二月一〇日付けでした課税標準を金三億一五六一万九〇〇〇円、税額を金九四六万八五七〇円とする不動産取得税賦課決定を取り消す。

二  被告栃木県に対する請求に係る訴えを却下する。

三  訴訟費用は、原告と被告栃木県宇都宮県税事務所長との間においては、原告に生じた費用の二分の一を同被告の、その余は各自の各負担とし、原告と被告栃木県との間においては全部原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  主文第一項と同旨

2  被告栃木県(以下「被告県」という。)は原告に対し金九八九万五〇七〇円及びこれに対する昭和五二年八月二六日から完済に至るまで年七・三パーセントの割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  2につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  被告栃木県宇都宮県税事務所長(以下「被告県税事務所長」という。)

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

2  被告県

(本案前の答弁)

主文第二項と同旨

(本案の答弁)

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

(三) 仮執行宣言付きの被告敗訴の判決の場合には、担保を条件とする仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  原告は、昭和五一年八月一八日、訴外融和商事株式会社(以下「融和商事」という。)から、同会社の所有する別紙目録記載の建物(以下「本件建物」という。)を買い受けて取得したところ、被告県税事務所長は、原告に対し、同年一二月一〇日付け不動産取得税納税通知書をもつて、本件建物の取得について、課税標準を三億一五六一万九〇〇〇円、税額を九四六万八五七〇円とする不動産取得税賦課決定(以下「本件処分」という。)をした。

原告は、本件処分に不服であつたので、栃木県知事に対し審査請求をしたところ、同知事は、昭和五二年三月三一日、右審査請求を棄却する旨の裁決をした。そこで、原告は、やむなく昭和五二年八月二五日までに右税額及び延滞利子の合計九八九万五〇七〇円を被告県に納付した。

2  しかしながら、本件処分は、次の理由により違法である。

(一) 地方税法(以下「法」という。)七三条の二一第二項によれば、不動産取得税の課税標準となるべき価格は、固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されていない不動産については、固定資産評価基準によつて決定するものとされているので、そのような不動産についての課税標準は固定資産課税台帳に登録されるべき価格と同じ価格に決定すべきものと解される。

(二) 原告が本件建物を取得した当時はもとより、本件処分当時も、本件建物については、固定資産課税台帳に固定資産の価格は登録されていなかつた。

(三) 融和商事は、遅くとも昭和四九年一一月二八日までに、本件建物を新築により取得していたから、この事実を前提として適用されるべき固定資産評価基準によりその価格が登録されているべきであり、その登録されるべき価格が課税標準となるべきである。

(四) ところが、被告県税事務所長は、本件建物は昭和五〇年一月二日以降に新築取得され固定資産課税台帳に登録し得るようになつたとの判断の下に、昭和五一年度に適用される基準(昭和五〇年度分として本来登録される価格より高額となる。)により課税標準を定め、これに基づき本件税額を決定した。

3  本件処分には、右のとおり前提事実を誤認した違法がある。したがつて、前記のとおり原告が本件処分に基づいて合計九八九万五〇七〇円を納付したのは誤納というべきである。

よつて、原告は、本件処分の取消しを求め、被告県に対し、右納付額に相当する九八九万五〇七〇円及びこれに対する前記のとおり納付を完了した日の翌日である昭和五二年八月二六日から完済に至るまで法所定の年七・三パーセントの割合による還付加算金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告らの認否及び主張

(認否)

請求原因1の事実は認める。

同2の(一)の主張並びにその(二)及び(四)の各事実はいずれも認め、その(三)の事実は否認する。

同3は争う。

(主張)

1 本案前の主張(被告県)

仮に、本件処分が取り消された場合には、原告の主張に係る納付金相当額は原告に自動的に還付されることが明らかであるから、被告県に対する訴えはその利益がない。

2 本件処分の経緯及び適法性について

(一) 原告が本件建物を取得したことに対して課する不動産取得税の課税標準は、請求原因2の(一)(二)のとおりの理由から固定資産評価基準によつて決定すべきであるが、固定資産評価基準(法三八八条)は、昭和五〇年一二月二二日自治省告示第二五二号をもつてその一部が改正され、昭和五一年度における家屋の評価は、新増分(当該年度において、新たに課税の対象となる家屋、つまり、昭和五〇年一月二日から昭和五一年一月一日までに新築された家屋)の非木造家屋については、再建築費評点補正率を一・四として価額を算出し、在来分(新増分の家屋以外の家屋、すなわち、昭和五〇年一月一日までに新築された家屋)のそれについては、昭和五〇年度の価額によるものとされた。

(二) ところで、新築工事中の家屋はどの程度まで完成したときに不動産取得税及び固定資産税の課税客体となるかについて、法は特段の定めをしていないが、一般に、当該家屋の建築の過程において、これ以上には家屋の価格の増加を期待できないといえる程度に工事を完了したと認められる状態に達したこと、換言すれば、当該家屋の種類、構造、用途等を考慮して当該家屋の本来の用途に応じ現実に使用収益し得る程度に完成されたことを要すると解すべきである。なぜなら、およそ建物は、その使用の目的に応じて構造を異にするものであつて、これを新築する場合には、建物がその使用目的に相応する構成部分を具備しない限りいまだ建物としての効用を果たすことができないし、そもそも不動産取得税は課税対象である固定資産そのものの価値(当該固定資産を使用収益する経済的価値)に着目して課される財産税であり、また、固定資産税は固定資産の資産価値に着目して課される物税であり、その担税力はその物自体が有している客観的価値に応じて決定されるものであるから、前記の程度にまで工事を完了したと認められる状態に至つて初めて課税対象となる「家屋」になるといえるからである。したがつて、その時期についての問題は、当該建物がいつ不動産として登記の対象となるかの問題とは本質を異にし、例えば、工事中の建物につき内装工事が未了の場合においては、いまだ課税対象となる「家屋」とはいえないのであり、このことは、内装工事が固定資産評価基準上、価格決定の一要素となつていることからも明らかである。また、本来の目的・用途に応じた使用開始の事実は使用収益し得る時期の判断につき重要な要素となることは当然である。

そして、右の意味での家屋の新築があつた場合において、当該家屋について最初に使用又は譲渡が行われた場合に、初めて課税客体である不動産の取得があつたものとみなされるのである(法七三条の二第二項)が、右条項にいわゆる「最初の使用が行われた日」とは、本来の用途に応じ現実に使用収益し得る程度に建物が完成し、当該家屋を本来の用途・目的に従つて使用した日をいうものと解され、建物を本来の用途・目的に従つて使用するというのは、工事のために使用したり、工事中に仮使用をしたりする場合を含まず、家屋が住宅であれば住宅として、ホテル又は旅館であればホテル又は旅館として使用することをいうと解すべきである。

(三) そこで、本件建物についてこれをみると、その建築工事から完成に至る経過は次のとおりである。

本件建物は、注文者融和商事と請負人訴外岡崎工業株式会社との間で昭和四八年三月締結された請負契約に基づき新築されたものであり、当初は昭和四九年一一月完成見込みとされていたが、昭和四九年一一月九日には、両者間で、工事の追加、変更を取り決める一方、未着工部分についての単価を改訂する旨の更改契約を締結している状況であつた。その追加変更工事の内容は、新たにエレベーター施設を一基設置し、一一階から一二階に通じる階段及びロビーの一部を吹き抜けとする予定を取り止めて床コンクリートスラブで遮断することとし、一二階にも設置する予定であつた厨房施設を一一階に移転して、これに見合う工事をするというものであるが、この工事は昭和四九年一一月から一二月にかけて着工され、その後に内部仕上工事として床工事、内壁工事、天井工事、照明器具の設置等に及び、昭和五〇年一月末まで行われていた。この間、昭和四九年一一月二八日には東京電力株式会社から業務用電力の通電がされ、同月三〇日には東京ガスとの間にガス供給契約が締結されてガス設備が設けられ(使用開始は昭和五〇年二月以降)、一二月五日には建築基準法七条一項の規定による建築完了届が宇都宮市長に提出されたが、この段階で同市建築指導課が完了検査を行つたところ、一階から一〇階までは九分どおり完成していたが、一一階と一二階は内装工事中であり、地階は内装工事が未着手であつて、同条三項の規定による検査済証の交付ができない状態であつた(検査済証の交付があつたのは昭和五〇年八月一一日である。)。そこで、融和商事は、同市建築指導課の指導に基づき、宇都宮市長に対し、昭和四九年一二月二六日、一階から一〇階までについて仮使用期間を昭和五〇年一月一五日から四月三〇日までとする建物仮使用承認申請書を、同年一月二二日、一一階と一二階について仮使用期間を同年二月一日から四月三〇日までとする同趣旨の申請書を順次提出し、それぞれにつき同市長の承認を受けた。そして、融和商事は、同年一月二四日、旅館業法三条の規定による経営の許可を受け、同年二月二四日、法一二〇条一項、栃木県県税条例六〇条一項の規定により本件建物において旅館業を開始するため料理飲食等消費税の特別徴収義務者としての登録を被告県税事務所長に申請し、同月二五日本件建物において旅館業を開業(六階から一〇階まで使用)するに至つた。

したがつて、本件建物が本来の用途に応じて現実に使用収益し得る程度に完成したのはそのころであり、本件建物の最初の使用が行われたのは昭和五〇年二月二五日というべきである。

(四) 以上のとおりであるから、本件建物は、昭和五一年度において、固定資産評価基準にいう「新増分の家屋」に該当し、改正後の同基準において、新基準の適用除外物件とされている同年度における「在来分の家屋」に該当するとみる余地はないというべきである。なお、本件処分後であるが、宇都宮市においても、本件建物について、同様の判断に立つて改正後の同基準により固定資産の価格を決定し、固定資産課税台帳に登録した。

(五) よつて、被告県税事務所長は、原告の本件建物の取得に対し、改正後の固定資産評価基準の定めに従つて課税標準額を三億一五六一万九〇〇〇円と決定し、これに法七三条の一五第一項所定の税率一〇〇分の三を乗じて税額を九四六万八五七〇円としたのであり、本件処分は適法である。

3 金員の支払請求について(被告県)

仮に、本件処分が違法として取り消された場合には、その効力は、被告県税事務所長だけでなく、その他の関係行政庁をも拘束する結果、本件処分に従つて納付された税額等は、過誤納金として還付されることとなる。

したがつて、原告の被告県に対する主張は理由がない。

三  被告らの主張に対する原告の認否及び反論

(認否)

被告らの主張2の(三)のうち、請負契約及び更改契約の締結、業務用電力の通電、ガスの供給及び使用、建築完了届の提出、検査済証の交付、二回にわたる仮使用の承認、特別徴収義務者としての登録についての各事実は認める。同2の(五)のうち、被告ら主張の評価基準によつた場合には、課税標準額、税額及び延滞利子の額がそれぞれ被告ら主張のとおりになることは認める。

(反論)

1 被告らは、原告が宇都宮市長に対し本件建物の建築完了届を提出したのに伴い完了検査をした際、本件建物は全体としては未完成であつた旨主張しているが、その当時、本件建物は既に建物としては完成していた。当時、宇都宮市長が検査済証の交付をしなかつたのは、一一階と一二階が内装工事中であり、地階の内装工事が未着手であるとの理由によつたものと考えられるが、同市担当職員は、逆にそれ以外の部分については九分どおりの完成を認め、十分に使用するに足りるだけの完成を確認して建物の一部仮使用の承認申請について指導したのである。当時、融和商事としては、一一階は中華料理店、一二階は洋食店として賃貸し、通常の事例に従い借主側に内装工事をさせる予定であつた。

2 被告らは、本件建物の完成時期の判定について、仮使用許可、料理飲食等消費税の特別徴収義務者の登録、更には、開業といつた各段階を考慮するようであるが、建物をどのように使用するか、いつから開業するかは、申請者の意思により決まることであるし、特別徴収義務者となつたかどうかは届出義務の履行に係る税務上の問題であり、いずれも建物の完成、取得の時期の判定資料とすることはできないものである。むしろ、本件建物の新築完成の認定については業務用通電の事実を重視すべきである。業務用電力には、責任使用量の制度があり、本件建物の場合には、最低使用量を月額料金二三万三〇〇〇円として契約が成立している。通電しても安全といえる程度に建物が完成していなければ、危険を伴う高圧電力を供給することはあり得ない。したがつて、本件建物は、これに電力の供給がされた時点(昭和四九年一一月二八日)をもつて新築の完了があつたというべきである。

3 新築建物は、主要構造部分、屋根工事及び外壁一回塗りが終わつた段階で表示ないし保存登記がされ、これを前提として毎年一月一日現在で固定資産税が賦課されている。本件建物は、被告らの主張からしても、昭和四九年中に九〇パーセント完成していたのであり、同年中に表示ないし保存登記の要件を具備し、固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されていたはずであるのに、昭和五〇年度の賦課期日に評価の対象とされなかつたのである。宇都宮市内の目抜き通りに位置する本件建物が、昭和五一年になつて初めて課税当局の手によつて評価の対象となつたのは理解し難いところである。

第三証拠関係〈省略〉

理由

第一被告県税事務所長に対する請求について

一  請求原因1の前段のとおり原告が本件建物を取得し、これに対し本件処分が行われたことは、当事者間に争いがない。

二  本件処分の適法性について

1  法によれば、不動産取得税は不動産の取得に対し当該不動産の取得者に課されるものであり(法七三条の二第一項)、その課税標準は不動産を取得した時における不動産の適正な時価であるが(法七三条の一三第一項、七三条五号)、その価格は、固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されている不動産については当該価格により(法七三条の二一第一項)、固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されていない不動産については自治大臣の定める固定資産評価基準によつて(同条二項)決定すると定められている。本件において、原告が本件建物を取得し、本件処分が行われた時点では、家屋課税台帳に本件建物の固定資産の価格が登録されていなかつたことは、当事者間に争いがない。

したがつて、本件不動産取得税の課税標準となるべき価格は、固定資産評価基準により本来家屋課税台帳に登録されるべき本件家屋の固定資産価格を算出する方法により決定されることになる。

2  ところで、自治大臣は、法三八八条一項の規定に基づき、昭和三八年自治省告示第一五八号に示されているとおり固定資産評価基準を定めたが、昭和五〇年一二月二二日付け自治省告示第二五二号をもつてその一部を改正し、昭和五一年度分の固定資産税から適用することとした。右のとおり改正された後の固定資産評価基準第2章第4節一によれば、固定資産税に係る昭和五一年度から昭和五三年度までの各年度における家屋の評価に限り、家屋の価額を求める前提となる評点数を算出するのに用いるべきものとされている算式の適用に当たつては、再建築費評点数に自治大臣が別に指示する再建築費評点補正率を乗じることと定められた(自治大臣が別に指示する右補正率は、右同日付けをもつて、非木造家屋にあつては一・四〇とされた。)が、他方、同節二によれば、固定資産税に係る昭和五一年度における在来分の家屋の評価に限り、右の新基準によつて求めた家屋の価額が改正前の基準によつて求めた家屋の価額(昭和五〇年度の価額)を超えるものについては、後者によることとされている。そして、同基準第2章第1節三の2の(4)において、「在来分の家屋」とは新増分の家屋以外の家屋をいい、「新増分の家屋」とは当該年度において新たに課税の対象となる家屋をいうとされている。(以上につき、成立に争いのない乙第一号証の一、二、第一三号証参照)

一方、固定資産税の賦課期日は当該年度の初日の属する年の一月一日とされている(法三五九条)から、改正後の固定資産評価基準の適用を受ける各年度のうち初年度における「新増分の家屋」(すなわち、昭和五一年度に新たに課税の対象となる家屋)とは、昭和五〇年一月二日から同五一年一月一日までに新築された家屋をいうことになり、昭和五〇年度の固定資産税の賦課期日である昭和五〇年一月一日現在既に所在する家屋は昭和五一年度においては「在来分の家屋」ということになるわけである。本件において、請求原因2の(四)の事実は当事者間に争いがないから、被告県税事務所長は、本件建物を右にいう昭和五一年度における「新増分の家屋」に当たると判断し、この判断を前提として改正後の右基準の第2章第4節一の定めにより、原告の本件建物の取得についての課税標準を決定したことは明らかである。

したがつて、問題は、本件建物が新築により新たに固定資産の課税対象となつたのは、被告が主張するとおり昭和五〇年一月二日以降であるか、それとも原告が主張するように同月一日以前であるかに係ることになる。

3  建築途上の建物は、どの程度まで完成したときに固定資産税の課税客体となるかについて、法は明文の規定を置いていないが、必ずしも建築工事の全部が完了しなくても、建物としての構造上必要不可欠とされる主要構造部(屋根、外壁等)を備え、社会通念上、土地から独立した一個の不動産として取引又は利用の対象とされ得る程度にまで達した時に、同税の課税客体になると解するのが相当である。法三八一条三項は、建物登記簿に登記されている家屋について所定の事項を家屋課税台帳に登録すべきものとし、また、法三八二条は、登記所は、建物の表示に関する登記をしたときは、一〇日以内に、その旨を当該家屋の所在地の市町村長に通知しなければならず(同条一項)、通知を受けた市町村長は、遅滞なく、当該家屋についての異動を家屋課税台帳に記載しなければならない(同条三項)と定め、他方、法三四九条一項は、家屋課税台帳に登録されたところに従つて固定資産税の課税標準を決めるべきものとしているが、これらの規定は、建築中の建物についていえば、予定されている工事が全部完了したといえない状態であつても、独立不動産といい得る状態に至つて建物の表示の登記をすることができるようになつた建物は、家屋課税台帳に登録されて固定資産税の課税客体として扱われるべきことを示しているというべきである。

被告らは、建築途上の建物につき、いかなる段階において不動産取得税の課税客体となるかについてるる主張している。しかしながら、不動産取得税、固定資産税とも、課税客体となる土地及び家屋の範囲は発電所及び変電所が家屋に含まれるか否かの点を除けば両者同じである(法七三条二、三号、三四一条二、三号)し、課税標準となる価格はいずれも適正な時価をいうとされ(不動産取得税につき前記二の1のとおり、固定資産税につき法三四九条一項、三四一条五号)、既に明らかなとおりその算定基準は同じ基準によることとされているわけであるところ、固定資産税の課税客体についての法の趣旨は前記のとおりであつて、土地から独立した一個の不動産として建物の表示の登記をすることができるまでに完成した建物につき、その有する資産価値に着目してこれを固定資産税の課税客体としているものというべきで、現実に使用収益し得る価値に着目しているとは解されないのである。また、固定資産評価基準には内部仕上げ等を含む家屋の各部分ごとの評点項目が掲げられており、家屋の評価に当たつては内装工事も考慮されるべき一要素となることは被告らの主張するとおりであるとしても、このことによつて固定資産税の課税客体となるべき時期の決定が左右されるものではない。なお、法七三条の二第二項は、家屋の新築による取得に対し不動産取得税を課する場合に、当該家屋の取得時期及び納税義務者を定めるための規定であつて、建築中の家屋がどのような段階に至つて課税客体としての家屋になるかの問題ないし課税標準の決定方法についての問題には関係がない。したがつて、これらの点についての被告らの主張はいずれも採用できない。

4  本件建物の建築経過をみるに、本件建物は、注文者融和商事と請負人岡崎工業株式会社との間で昭和四八年三月締結された同四九年一一月工事完成見込みの請負契約に基づき新築されたこと、同月九日、両者間で工事の追加及び単価の改訂についての更改契約が締結されたが、同月二八日には業務用電力の通電がされ、同月三〇日にはガス供給契約が締結されてガス設備が設けられたこと、同年一二月五日、建築完了届が宇都宮市長に提出されたこと、同月二六日ごろ、一階から一〇階までについて仮使用期間を同五〇年一月一五日から四月三〇日までとする建物仮使用の承認を受け、同年一月二二日ごろには、一一階と一二階についても、仮使用期間を同年二月一日から四月三〇日までと定めた建物仮使用の承認を受けたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第二、第三号証、第四号証の二、第一二号証及び証人佐藤融の証言によれば、本件建物は地上一二階、地下一階の鉄骨鉄筋コンクリート造りの近代的高層建築物であること、昭和四九年一二月末当時、本件建物の基礎工事、鉄骨鉄筋工事及びコンクリート工事は既に完了し、コンクリートの壁面及び床はほぼでき上がつており、レストラン用にテナント入居者を募集中であつた一一階、一二階についての設計変更に伴う厨房や床等の追加工事及び各階の内装等の仕上工事が一部未了であつたほかは、ほとんどの工事が終了していたことが認められる。

以上の事実によれば、本件建物は、昭和五〇年一月一日当時、一部に工事の未了部分があつたが、既に主要構造部を備え、社会通念上、土地から独立した一個の不動産として取引又は利用の対象とされ得る程度にまで達していたことは明らかである。

5  そうすると、本件建物は、昭和五〇年一月一日現在、固定資産税の課税客体として所在していた家屋であることになるから、既に説示したところに照らし、昭和五一年度においては、固定資産評価基準にいう「在来分の家屋」に該当するというべきである。そして、弁論の全趣旨によれば、本件建物につき、前記のとおり改正された後の右基準によつて求めた家屋の価額は改正前の基準によつて求めた価額を超えることは明らかであるから、本件建物についての課税標準は改正前の基準に従つて決定すべきであつたわけである。したがつて、本件建物を昭和五一年度における右基準にいう「新増分の家屋」に該当するとして前記のとおり新基準に従つてされた被告県税事務所長の本件建物の取得についての課税標準の決定及びこれを前提とする本件不動産取得税賦課決定は誤りであるといわなければならない。

ところで、本件建物の正当な課税標準価格を具体的に確定するのに必要な諸事実を認めるに足りる証拠はないから、結局本件建物の正当な課税標準価格は不明である。

よつて、本件処分は全部違法として取消しを免れない。

第二被告県に対する訴えについて

原告が、本件処分に基づき、請求原因1の後段のとおり合計九八九万五〇七〇円を被告県に納付したことは当事者間に争いがない。しかしながら、原告が被告県に右金員を納付した法律上の原因は本件処分に基づく納税義務であるから、本件処分を取り消す判決が確定して初めて右金員を納付した法律上の原因を欠くことになり、被告県は不当利得として原告に対し右納付に係る金員を返還すべき義務が発生するわけであるから、右金員の返還を求める本件訴えは将来の給付の訴えである。ところが、あらかじめ右金員の返還を求める必要については特段の主張、立証はないし、被告県は、本件処分を取り消す判決が確定した場合には、右金員の返還を拒否するとは考えられない。

したがつて、被告県に対する請求に係る訴えは将来の給付の訴えの要件を欠くものである。

第三よつて、原告の被告県税事務所長に対する請求は理由があるから認容し、被告県に対する訴えは不適法であるから却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 奥平守男 赤塚信雄 米山正明)

目録〈省略〉

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